第50回 例会を終えて
京都教育懇話会 企画運営委員(京都市教育委員会 学校指導課 企画調査係長)
山﨑 哲史

京都教育懇話会は,平成20年の発足以来,産学公連携のもとで,次世代の教育や人材育成と向き合い,常に時代を先取りした新たな教育のあり方を発信してきました。
令和元年11月13日に開催された,記念すべき第50回となる例会(勉強会)は,京都市立学校・幼稚園の管理職研修(学校経営力向上講座)にも位置づけ,当初の定員130名を大きく超える参加者が集う中,世界の様々な企業や機関を舞台に先進的な改革を手掛けられ,国の中央教育審議会でも活躍される(株)フェニクシー取締役の小林 いずみ 氏,これまで多様性を最大限に引き出す人材育成や組織づくりの先導的役割を果たされるとともに,京都市立日吉ケ丘高校の学術顧問を務められるなど学校教育にも精通される(株)堀場製作所の野崎 治子 氏,異文化コミュニケーションをご専門とされ,特色ある一貫教育を通じたグローバル人材育成を展開される立命館小学校・中学校・高校 代表校長の堀江 未来 氏をお迎えし,「AI・デジタル革命時代の人材像~次世代は志高く世界にその目を開け~」をテーマに議論を深めました。第一部では小林氏からのご講演・問題提起を,第二部では野崎氏・堀江氏を加えた鼎談を行い,「科学技術の飛躍的発展に伴い加速度的に変容する社会をどう見るか」,「次世代が予測困難な未来を志高く生き抜くために育むべき力とは何か」をはじめとした幅広い論点ついて,イノベーション(社会変革)やSDGs,レジリエンスやダイバーシティ&インクルージョンなどの多様な視点から,今回のテーマに迫ることとなりました。様々なお話がありましたが,私が特に興味深く拝聴した点は次のとおりです。

(1) 「人の価値とは?」「自分の存在価値をいかにして見い出すのか?」が問われる時代に!教育が目指すべきは子どもたちの「生きる力」を育むこと!
  ・ 今の子どもたちが生きることになる未来社会は誰にも予測できない。だからこそ,イノベーション(社会変革)を通じた未来社会の創造主となる次世代が高い志をもち,行動できるようにすることが持続可能な社会の形成に向けて何よりも重要。
・ SDGsを構成する目標等の一つ一つにはとても大切なことが描かれているが,ある目標等を実現するための取組は,別の目標等の視点ではマイナスに転じることが多くある。それだけボーダレス化し,複雑になった社会の中で,異なる価値観を有する人々との対話と協働を通じて様々な矛盾を乗り越えていくことが求められる。
  ・ ある講演会で出会った方から,「私たちはテクノロジーと戦っています」と言われたことがある。この言葉の意味するところは,(1)最新のテクノロジーを使いこなすこと,(2)AIが人間を代替する社会の到来に「人の価値とは?自分の存在価値をいかに見いだすのか」が問われること,だった。特に(2)は極めて根源的な問いであり,そうした命題と常に背中合わせに,これからの子どもたちは社会を生き抜かなければならない。
  ・ 「テクニカルスキル」だけでなく,「考え・行動する力」,「結果を受け入れ次に進む力」,「社会の中で生きる力」を育むことが大切。自分自身をどうやって表現するのか,自分はどういう人なのかを伝えることができるようになりたい。
  ・ 失敗しないように大人が先回りして御膳立てするのではなく,子どもたちがまず挑戦し,そこからスパイラルアップできるよう,レジリエンスな環境づくりが大切。「折れてもいい」,「何をやっても間違いではない」,「転んだとき,頑張ったね。えらいね」と言えるように。

 (2) 「ダイバーシティ&インクルージョン」,「スーパーマンはいないがスーパードリームチームはつくれる」
・ 新たな価値を創造するイノベーションの原動力となるのは多様性の力。今夏に開催されたラグビーワールドカップでの日本代表の躍進には多様性の力が大きく寄与したとも言われる。
  ・ 多様な人材がただ集まるだけでは不十分。多様な人材が対話を繰り返す中でチームの力となる「インクルージョン」を構築すること。自分の個性をコンプレックスではなく,ポジティブに伝えられるようなオープンな組織に。
・ そうしたことをステンドグラスに例えるとわかりやすい。ステンドグラスは,様々な形や色のガラスが合わさって美しい一つの絵になる。各ガラスをつなぐのはマネジメントよりもコミュニケーション。尊敬や共感が生まれる中で,一人一人がステンドグラスを構成する不可欠な存在であることを認識する。
  ・ 今の時代,一人で全てを完遂するスーパーマンを見つけることは困難だが,多様な個性が一つの大きな力となる「スーパードリームチーム」をつくることはできる。そうしたチームこそが,持続可能な組織である。

 まさに私にとって,「常識を揺さぶられる」2時間でした。未来社会づくりの駆動力として,イノベーションやSDGs,ダイバーシティといったキーワードを頻繁に見聞きしますが,多くの矛盾を抱え大きく変容する社会の文脈の中でそれらを適切に関係づけられていないことを痛感しました。また,「人としての価値」の再考が迫られる中,人づくりや教育についても,「あるべき姿」を論じるだけでなく,その姿に向け,「みんなごと」として「社会全体でどのように協働していくのか」が問われていることへの課題認識ができました。

 京都は,国に先駆け町衆が番組小学校を創設してから150年の節目の年を迎えます。「まちづくりは
人づくりから」を合言葉とした先人の志と歩みは,現在もなお京都ならではの「はぐくみ文化」として
息づいています。こうした「まち」そのものが人材や産業の孵化器である京都では,近年,イノベーシ
ョンのエコシステムの形成が加速化し,「世界のスタートアップ企業」と「柔軟な発想や地域に根差した
行動力を有する京都企業」とのコラボレーションによる新たな価値創出や未来の担い手の育成が期待さ
れるところです。

「私たち一人ひとりの力は微力であっても,決して無力ではない」,課題山積の今の社会を少しでも変
えていくことができる,新たに創っていくことができるとの希望をエネルギーに,京都教育懇話会が「人づくり」に向けた協働のハブとしての役割を果たしていきたいと考えています。
 
最後になりましたが,御登壇いただいた小林 いずみ 様,野崎 治子 様,堀江 未来 様をはじめ,例会の開催にご支援賜りました皆様に厚く感謝申し上げます。ありがとうございました。