第48回 例会を終えて
京都教育懇話会 企画運営委員(京都市教育委員会学校指導課企画調査係長)
山﨑哲史

京都教育懇話会は,京都に新たな技術・開発拠点を設立したLINE株式会社を今年度から法人会員に迎え,将来予測が困難なポスト平成の時代を創造・先導する推進力に益々力強さが加わることとなりました。

さて,第48回例会は,2019年4月24日,平成の時代を締めくくるに相応しく,定員の100名を超える参加者が集い熱気溢れる様相を呈する中,講師に猟師の千松信也氏をお迎えし,「京都の山と森と私と野生動物~猟師というライフスタイルの現在形~」をテーマに,第一部として千松氏からご講演いただいた後,第二部として来場の皆様から寄せられたご質問やご意見を踏まえた千松氏との意見交換を通じて,都市生活と自然の関係,命の問題をはじめとした道徳教育,SDGsやレジリエンスなど多様な視点から,今回のテーマに迫ることとなりました。

千松氏からは様々なお話がありましたが,私が特に興味深く拝聴した点は次のとおりです。

① 命を食べることに責任を持っていること
猟とは「生活の営み」。「食」という営みにおいて,材料を買って調理をする部分は多くの人々が経験していても,その材料を自ら獲ってくることはなかなか経験しないこと。千松氏は,「命を奪う」大切で大変な行為を見知らぬ人・見知らぬ所に委ねることに違和感を覚え,猪や鹿との全身全霊をかけた真剣勝負を自らの手で行うことで「食」を営んでいくことへの強い決意を示されました。

② 野生動物をはじめとする多様な環境を受容し共生関係にあること
野生のシカやイノシシなどが農作物を食い荒らす獣害が深刻な社会問題として取り上げられることが多く,野生動物は人間の生活を守るために「駆除される対象」と捉えられがちですが(大規模な植林や里山利用の放棄など人為的な要因を省みず,あたかも動物が勝手に増えたかのように人間との対立構造をつくりだしている),千松氏は決して生態系を崩すことのない,「山の恵であり自らの生活そのもの」と捉え,野生動物とは共生の関係にあるものと考えられていました。

③ 自分の暮らしを自分で能動的に選択していること
直接生活につながりもしなければ実感に乏しい仕事をし,自分の労力や時間を貨幣に替えて,スーパーで誰が育てたのか,さばいたのかもわからない肉を買う。こうしたスタイルは,千松氏からすれば,複雑で面倒とのことです。千松氏は,猟師と言っても文明を拒絶・忌避するような懐古的なもの,主義主張に凝り固まったものではなく,運送会社の仕事の傍ら,生活のために大好きな狩猟をされており(狩猟はあくまで自分や近親者の生活に必要な範囲内。商業目的の専業狩猟ではない),完全な自給自足ではなく,新しいスタイルの現在進行形として,山紫水明な京都の地の利を活かして現代の暮らしを楽しみつつ合理的な選択をされています。自身の生活スタイルについては,「そんな一昔前の暮らしをよくやるよなぁ」と他人から揶揄されることがあるとのことですが,より効率の良い進化した暮らしであると力説されていました。

以上のような生活スタイルについて,楽しいこと,面白いことを追って辿り着いたと,千松氏は簡単におっしゃっていましたが,仕事と生活が分離しがちな世間の常識に雁字搦めになっている私にとっては至難の道のりであると,自らを省みる機会になりました。

京都は,自然を敬い,共生し,その恵みによって,持続可能な都市として今日まで発展してきました。この都市特性は千松氏の生活スタイルと軌を一にするものではないでしょうか。今後も将来にわたって,京都が世界に誇る都市であり続けるためには,経済成長だけを求めるのではなく,文化の面でも,レジリエントシティの面でも,SDGsの面でも,千松氏のように,確固たるアイデンティティをもって,多様な環境と共生し,京都ならではの価値を創造していくことのできる人材が求められていると実感しました。

5月26日には,「グローバル人材育成の要諦~次世代はその目を世界に開け~」をテーマに本懇話会主催のフォーラムを開催します。今度は,視点を世界に広げ,加速度的に変化するグローバル社会ではどのような価値を創造する人材が求められるのかについて,多くの皆様と考えていきます。今回の例会で議論した身近でローカルな視点からのあるべき人材像と,グローバルな視点からのあるべき人材像とはどのような点で共通し,どのような点で異なるのかという観点でフォーラムに参加いただければ,より理解が深まるのではないかと思います。皆様の積極的なご参加をお願いします。

最後になりましたが,講師の千松様をはじめ,例会の開催にご支援賜りました皆様に厚く感謝申し上げます。ありがとうございました。